ディリーコラム(05年1月〜2月)で、大平原地帯に住むファースト・ネーション(先住民)の人々の歴史や文化に触れる展示が充実している博物館をご紹介してきました。アルバータ州の州都エドモントンにある州立博物館もそのひとつ。『アルバータ州の先住民文化』と名づけられた常設展には、五百世代にわたって受け継がれてきた伝統文化、そして各部族の現在の状況が分かりやすく解説されています。
ここの展示物についてはディリーコラムでも触れましたが、中でもぜひご覧いただきたいのは、「マニトー・ストーン」と呼ばれる不思議な石です。展示エリアのほぼ中央にさりげなく置かれているのですが、訪れる人のほとんどがこの石の前でしばらく立ち止まっています。まるで石のパワーに引き付けられたかのようです。石は濃い茶色で、表面は人間の脳のように小さな曲線が続いてデコボコしています。大きさは両手の手のひらに乗る程度ですが、「きっとすごく重たいだろうなぁ・・・」と思わせる量感が見るだけで伝わってきます。
アルバータ州の中央部からサスカチュワン州に住むファースト・ネーションの人々は、この石を聖なるものとして大切にしてきました。この石が発するパワーが各部族間の平和を保ち、バッファローの安定供給を保証してくれると信じられていたのです。この石は大平原地帯を守る神“マニトー”によって、現在アイロン・クリークと呼ばれている渓流を見下ろす丘の上に置かれたのだと言われています。
ところが1866年、ヨーロッパから布教のために、この辺りにやってきたメソジスト派の宣教師が、この石を無造作に掘り起こし、ビクトリアへ持って行ってしまったそうです。熱心なキリスト教徒にとっては、石を崇拝するなどもってのほか、ということだったのでしょう。
これを知ったファースト・ネーションの祭祀者たちは「石が移動されれば、戦争や疫病、飢餓がもたらされるだろう。」と恐ろしい終末的な予言をしたそうです。不幸なことにこの予言は的中し、1869年にはプレイン・クリー族とブラックフット族の間で抗争が始まり、400人以上の人が亡くなったといいます。さらにはヨーロッパ人が持ち込んだ麻疹などの病気が蔓延し、免疫のなかったファースト・ネーションの人々は3500人以上が亡くなりました。そして、バッファローも乱獲のために激減し、1878年以降は大きな群を見かけることもなくなったのです。
自分たちの生活と文化の基盤であるバッファローを失ったファースト・ネーションの人々の長く苦しい時代は1970年代まで続きました。しかし、今では自分たちの文化に誇りを持ち、大平原の自然と共に生きる人々の暮らしぶりは、先住民以外の人々にも大きな影響を与えるようになりました。「マニトー・ストーン」もアルバータ州に戻って来ました。本当は博物館に置かれるのではなく、かつてのようにアイロン・クリークの丘の上に戻りたいのでは・・・と思いますが。
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