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クイーン・シャーロット島
2004.06.13 クイーン・シャーロット島特集 1
星野道夫さんの愛した島

  クィーン・シャーロット島はカナダの西海岸、アラスカとの国境近くに浮かぶ群島です。ここは優れた航海術や工芸品、豊かな伝承文化などを育んできたハイダ族の人々のふるさとです。ハイダ族は 1 万年あまり前からこの島に住んでいたと考えられていますが、 18 世紀から始まったヨーロッパ人との出会いで持ち込まれた疱瘡などの伝染病によって、人口が激減してしまいました。この悲劇で廃墟となった村は今、グァイ・ハーナ国立公園保護区に指定されて護られています。とりわけアンソニー島のスカングァイ村落跡はユネスコの世界遺産に登録され、人類全体にとって大切なものとされています。

星野道夫氏の写真やエッセイで知られるスカングァイのトーテムポール 星野道夫氏の写真やエッセイで知られるスカングァイのトーテムポール
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2004.06.15 クイーン・シャーロット島特集 2
ゾーディアックで神秘の海へ乗り出す

 クィーン・シャーロット島へ渡ること自体は比較的簡単です。バンクーバーから飛行機も飛んでいますし、プリンス・ルパートからフェリーで行くことも可能です。しかし、19世紀以前のハイダ族の集落跡へ行くには、水上飛行機かボートしか方法がありません。ボートでのツアーを行っている会社は少ないので、島へ渡る前にきちんと予約をしておかないと、シーズン中に群島南部へ行くのは難しいでしょう。私はゾーディアックと呼ばれる高速ボートに乗っていきました。一見ゴムボートのようですが、基底部はファイバーグラスの船ですし、ゴムボート部分が大きいので安定しています。集落跡をめぐる旅は、島々の間を縫って進むので、それほど大きな揺れはありません。スピードが出るので、船酔いの心配もほとんどないそうです。

乗り心地上々とはいえないが、スリリングで冒険気分いっぱいのゾーディアック 乗り心地上々とはいえないが、スリリングで冒険気分いっぱいのゾーディアック
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2004.06.16 クイーン・シャーロット島特集 3
人間が生まれたのはこの島?!

 クィーン・シャーロット群島には、一万年以上前からハイダ族の人々が住んでいます。今も島の人口の約25%がハイダの人々です。恵まれた自然環境にあるハイダ族は複雑で奥行きの広い伝説をたくさん持っています。特に、「人類はこの島で誕生した。」という伝説が群島のあちこちに、様々なバージョンで伝わっているのに興味をひかれます。どれも少しユーモアのある美しいものですが、島の北東端にあるローズ・スピットの海岸に打ち寄せられた貝の中から人間が生まれたという伝承は、カナダを代表するアーティストの一人、ビル・リード氏の彫刻作品として有名です。貝の中にとじこもっていた人間を外に誘い出してくれたのはワタリガラスだったそうです。

人類誕生の伝承を彫刻にしたビル・リードの作品 人類誕生の伝承を彫刻にしたビル・リードの作品
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2004.06.17 クイーン・シャーロット島特集 4
“鮭の民”の文化

 クィーン・シャーロット島はもちろん、カナダ西海部のファースト・ネーション(先住民)の人々の暮らしの基本は鮭でした。おいしいばかりでなく、栄養たっぷりの鮭を保存するための技術も発展しました。ハイダの人々にとって、鮭が遡上してくる川を護ることはとても大切な使命、そして川を護るためには森を大事にしなければならないことも知っていました。温帯雨林の深い森が海に生きる鮭の生命の源であり、ハイダの人々の暮らしの基盤でもあったのです。“エコシステム”や“エコロジー”という言葉は使われなくても、大自然を尊重し、自分たちをその一部と考えるハイダの人々には、それは生きる知恵として伝えられていたのです。 今もクィーン・シャーロット島は鮭をはじめとする魚介類に恵まれています。旅の間に食べた鮭、とれたてのウニ、仕掛けたにたっぷり入っていた海老など、「舌が喜ぶ!」という言葉を実感させる新鮮な旨みは忘れられません。

サンドスピットの海辺には大きな鮭の記念碑があります。 サンドスピットの海辺には大きな鮭の記念碑があります。
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2004.06.20 クイーン・シャーロット島特集 5
森の巨人と共に暮らす人々

 ハイダ族の人々にとって鮭と同じく大切なものはレッド・シーダーと呼ばれる杉の巨木です。成長が早く、真っ直ぐに伸びるこの木は彫刻などの加工がしやすく、木のなかに自然の防腐剤が含まれていて保存にも優れています。ハイダの人々は、この木を使って何百人もが集える大きな家を建て、トーテムポールを作り、生活のさまざまな道具に利用してきました。彼らの行動範囲が驚くほど広かったのも、杉の木を使ったカヌーがあったからです。木の皮を剥いでなめし、衣服や帽子などを編んだりもしました。  ハイダの人々は必要以上に木を伐採したりせず、自然のサイクルを大切にして森を護って来ました。しかしヨーロッパ人がこの島に入って以来、高価に売れる杉の木は「商品」どして、どんどん伐採されるようになったのです。今も、クィーン・シャーロット島にはたくさんの巨木がありますが、かつてはもっと大きな「森の巨人」がたくさんいたのです。  森林伐採に対する考え方の違いは、1970年代の後半から大きな社会問題になりました。グアイ・ハーナ国立公園保護区が生まれたのも、森林を護ろうとするハイダ族の人々のねばり強い運動がきっかけでした。

国立公園保護区には美しい杉の木がたくさんあります。国立公園保護区には美しい杉の木がたくさんあります。
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2004.06.21 クイーン・シャーロット島特集 6
森へ還る悲劇の村

 一万年前からハイダグアイ(クィーン・シャーロット島)に住んでいたハイダ族の人々が、ヨーロッパ人と出会ったのは1774年のことです。最初はスペイン人、その13年後には英国人がこの島を「発見」しました。この出会いは、金属器からキリスト教まで、さまざまな社会的、文化的影響をハイダの人々にもたらしました。しかし、最も大きな影響は残念なことに伝染病だったのです。ヨーロッパ人との出会い前には、少なくとも1万4000人はいたと推定されるハイダ族の人々は、免疫の全くなかった天然痘の猛威に次々と倒れ、1911年の調査では589人にまで激減してしまいました。130近くあった集落のほとんどは放棄され、生き残ったごく少数の人々は群島の北部へ移動しました。今、グアイ・ハーナ国立公園保護区となっているエリアにも、多くの集落跡があります。人々は二度と戻らず、今は朽ち果てたトーテムポールや住居の跡が残っているだけです。杉の丸太を使った太い梁も、苔に覆われ、腐食して横たわっています。その上に種が落ち、次の世代の木々が育っているのが印象的でした。ハイダの人々は、この住居跡を尊重し、大切にしながらも、「永久保存」をするつもりはないようです。森から切り出した木材がまた森に還り、一つの生命の環がめぐると考えているのでしょう。

群島南部に点在する集落跡には、巨大な丸太を使った住居の跡があります。 群島南部に点在する集落跡には、巨大な丸太を使った住居の跡があります。
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2004.06.22 クイーン・シャーロット島特集 7
鯨、シャチ、イルカたちの王国

 グアイ・ハーナ国立公園保護区は大小さまざまな群島です。道路でのアクセスはありませんから、特集2でお話したようなボートに乗って行きました。このボートの良さは、スピードがあって小回りのきくこと。特に鯨などの海洋動物との出会いにはベストです。島周辺には灰色鯨や(コククジラ)やザトウクジラ、シャチなどが姿を現します。そしてときには、何十頭ものイルカたちに取り囲まれてしまうこともあるのです。イルカたちはボートの動きに合わせるようにしなやかに泳ぎ、美しい水煙をあげてジャンプを続けます。ここは彼らの王国なのだと、心が深く揺さぶられました。このほかにも、アザラシやトドが集まる大きな岩場がいくつもあります。トドのオスは大きな声をあげてボートの私たちを威嚇します。オスの合図で一つの群が一斉に海に飛び込む迫力の瞬間も見逃せません。また、アザラシが海中から愛らしい顔をだして、ボートに向かって首を振って挨拶(?!)したりもするのですよ。

驚くほどのスピードで泳ぎ回るイルカたち驚くほどのスピードで泳ぎ回るイルカたち
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2004.06.23 クイーン・シャーロット島特集 8
あああ・・温泉がいいんです

 グアイ・ハーナ国立公園保護区の中にある小さな島、ホットスプリング・アイランドには、なんと温泉が湧き出しています。ハイダの人々はあまり温泉好きというわけではなかったようで、不思議な煙をあげる水を怖れていたとも伝えられます。しかし、部族の長老の中には、自分たちだけでこの温泉を楽しもうと、わざと人を遠ざけるような噂を流した・・・という話もあります。どちらが本当でしょうか?今、その温泉は海を見渡す露天風呂にしつらえられ、爽やかな海風を受け、目の前に連なるたおやかな山並みを眺めながらお湯につかることができます。水着着用なのが少々残念ですが、お湯の温度は日本人にも「適温」レベル。一度にたくさんの人が島に上陸しないように、管理を担当する「ウォッチマン」と呼ばれる人々が調節してくれるので、心も体も本当に癒される感じです。  ウォッチマンは、公園のあちこちに駐在し、ハイダの伝統を自らも学びながら、集落跡の整備などに携わる人々です。ときどきは集落跡の中を案内してくれることもありますが、彼らの仕事はガイドではないし、管理人とも少し違います。村落跡やそれを取り巻く自然など、「場所」の見張り役(ウォッチマン)というだけではなく、文化そのものの見張り役でもあります。彼らのおだやかで地道な仕事ぶりは旅人の心にも長く残ることでしょう。


ウォッチマンが丁寧に整備している海辺の露天風呂ウォッチマンが丁寧に整備している海辺の露天風呂
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2004.06.24 クイーン・シャーロット島特集 9
誰もいない入り江でランチ

 グアイ・ハーナ国立公園保護区が世界的に高く評価されている理由の一つは、観光客の受け入れを「さりげない」やりかたで制限していることです。ハイダの人々は、この公園内の自然や文化的遺産を多くの人々に体験してもらい、今も生き生きと伝わるハイダの伝統や歴史を世界へ向けて語りかけようとしています。一方、過度の観光化がもたらす影響についても敏感で、それによる自然や伝統の破壊を食い止めようと努力しています。この公園に人を連れてくる許可を得ているツアー会社は、ウォッチマンとつねに細かい打ち合わせをし、同じ場所に別の旅行客が一緒にならないよう、上陸時間を調整します。公園内の大小の島々には、小さな入り江がたくさんありますから、自分たちだけの「隠れ家」のような海辺でくつろぎながら待つことができるのです。ボートの中のメンバーは最初の日が終わったころには、家族のようになごやかになります。それも、こうした「宝石のような時」を共に体験したから生まれる感情でしょう

トルマリンの宝石を溶かしたような海が待っています トルマリンの宝石を溶かしたような海が待っています
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2004.06.25 クイーン・シャーロット島 特集10(シリーズ1 最終回)
トーテムポールが語りかけるもの

 クィーン・シャーロット島で私が一番好きなのは、スキダーンの集落跡に残る、このトーテムポールです。傾いて、半身はすでに潅木に覆われています。やがて倒れて苔に覆われ、次の世代の木がそこから生えてくることでしょう。ハイダの人々にとってトーテムポールはとても大切なものですが、宗教的な崇拝の対象ではありません。ですから、時が来て倒れたなら、また新しいものが作られてきました。永久的な保存ということは考えられなかったのです。トーテムポールは家の歴史を語ったり、特定の人物を顕彰したりするために作られました。それは、そこに生きる人々と共にあったのです。ですから、博物館に「保存」されたり、人の住んでいない場所に「飾られ」たりするべきものではないと言えるでしょう。しかし、スキダーンの朽ちかけたトーテムポールは、何か私の心の奥の方を揺さぶる力があるように思えました。

10回にわたってクィーン・シャーロット島を特集しましたが、いかがでしたか?この島については、まだまだお伝えしたいことがたくさんありますので、また「シリーズ2」を企画しています。どうぞお楽しみに。

スキダーンの村にはもうすぐ大自然に溶け込んでしまいそうなトーテムポールが残されています。スキダーンの村にはもうすぐ大自然に溶け込んでしまいそうなトーテムポールが残されています。
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